【目次】

第1章　落石事例
第2章　落石調査
第3章　落石運動
第4章　落石シミュレーション
第5章　落石対策工の選定
第6章　落石予防工の設計
第7章　ポケット式落石防護網の設計
第8章　落石防護柵の設計
第9章　落石防護壁の設計
第10章　落石防護補強土壁の設計
第11章　Q&A



　我が国の約7割は、山地で占められており、地形は急峻である。加えて地質はぜい弱、梅雨や台風による豪雨、冬季の積雪および地震などの影響がある。こうしたことから、土砂災害が発生するおそれのある危険個所は、日本全国で約52万箇所あり、1年間に約1000件の土砂災害が発生している。土砂災害は大きく地すべり、土石流、斜面・盛土崩壊、岩盤崩壊・落石に分けられるが、土砂災害発生件数の10%を落石が占めている。
　1963年には、高知県高岡郡中土佐町久礼の国道走行中の軽トラックを落石が直撃し、運転手が死亡する事故が起きた。これに対し、わが国で初めて道路管理者の管理瑕疵を問う最高裁判決が出された。1968年には、土石流の直撃を受けた観光バス2台が飛騨川に転落し、乗員乗客104名が死亡した。この事故を契機として、1968年から道路防災点検が行われるようになった。
　落石対策においては、落石の発生時期と場所、落石の規模、斜面を落下する際の運動経路と跳躍奇跡、速度、運動エネルギー、到達位置を明らかにする必要がある。落石防護工の設計では耐衝撃性や運動エネルギー吸収性能を適切に評価する必要がある。
　1983年に日本道路協会から落石対策便覧が発刊され、落石対策の技術マニュアルとしての役割を果たしてきた。しかしながら、落石対策便覧が対象としている落石防護網や落石防護柵は、作用する落石の運動エネルギーが比較的小さな規模である。近年開発され施工実績を伸ばしている高エネルギー吸収タイプに関しては、安全性の照査法が具体的に示されていない。このため、落石の衝撃力や防護工の材料特性を考慮した合理的な設計手法の確立が必要となってくる。
　一方、作用となる落石の運動に関しては、経験則に基づいた等価摩擦係数法によって落石の速度や運動エネルギーを推定する手法が用いられてきたが、近年は数値シュミレーションが用いられるようになってきている。また、斜面の落石危険個所の特定には、航空レーザー測定による詳細な地形図が利用されるなど新しい技術が採用されるようになっている。
　
本書は、落石対策の調査・設計・施工にかかわる実務者を対象にしたもので、最新の調査・研究から得られた知見に基づき、落石調査、落石運動の予測、危険度判定、落石防護工の選定、設計法について、施工事例や数値計算例を交えて分かり易く解説している。
　しかしながら、落石対策に関する研究は歴史が浅く、解明すべき事例や改善すべき点は数多く残されている。筆頭に当たっては、調査・設計の手法をマニュアル的に記述するのではなく、実験や現地調査から得られデータに基づいた客観的知見、理論的な裏付けのあるものについて述べるようにした。従来の設計法の技術的な課題については、その理由を具体的にするよう努めた。
　また、読者が本書をわかり易くするためQ&Aの章を設けた。　本書が、落石対策の実務にかかわっておられる方々の参考になれば幸いである。


「落石対策の設計法と計算例」編集委員会
委員長　　右城　猛