まえがき


　地盤工学会では1985年に「土質断面図の読み方と作り方」という入門書を
出版している。この本の編集企画の際,地盤断面図と土質断面図の違いを議論
した記憶がある。「地質」と[土質]の違いもさることながら,土質工学会
(当時学会名)の出版物としては比較的軟らかい地盤を対象とし,建設に直結
した目的別の断面図ということになった。
　以来20年,地盤調査技術,解析技術も進歩し,改訂版の必要性が指摘され
た。さらに本学会では,断面図を作る人より利用する技術者が圧倒的に多いた
め「読み方」の面を充実させる必要性があり,また「土質」から「地盤」へ範
囲を拡大させる必要性等から,新たに第二弾として本書を出版することとなっ
た。
　編集執筆は九州の地質コンサルタントの中堅技術者が中心となって担当し
た。
　地盤断面図は作成する技術者の解釈によって大きく支配される。例えば,地
すべり断面図は地中に明瞭なすべり面が観察されなくとも,図面にはすべり線
を引かないと設計ができかいという宿命をもっている。
　したがって,現場が断面図のとおりに動かないのは,現場の計測が間違って
いるのではなく,断面図が間違っていることが多い。この当然の考え方を現場
では勘違いをすることがある。
　一旦,断面図を作成し,きれいな色を塗ってしまうと,それが正しく見えて
しまう。あくまでも断面図はボーリング柱状図等の点の情報を線に,線の情報
を面に延ばしたものであり,その間は解釈,推定であることを忘れてはならない。


「地盤断面図の読み方と作り方」編集委員会
委員長　奥園　誠之　




目次


第1章　地盤断面図を作成する目的
　1.1　概要

　1.2　地盤断面図を作成する対象物

第2章　地盤断面図を作成するための基礎知識
　2.1　地盤調査の考え方

　2.2　地質学的区分と工学的特性

　2.3　建設工事における地盤工学的問題点

第3章　地盤断面図の作成要領
　3.1　地盤断面図を作成するに当り

　3.2　地盤情報の利用

　3.3　地盤断面図の作成

第4章　事例集
　4.1　砂丘

　4.2　埋没谷と埋没海食棚

　4.3　厚い沖積層

　4.4　腐植土の分布する地盤

　4.5　東京山手台地

　4.6　不整合面を含む洪積層

　4.7　第三紀層および第四紀層よりなる海底地盤

　4.8　第三紀層よりなる丘陵地

　4.9　種々の支持層をもつ海底地盤

　4.10　風化した花崗岩よりなる橋り丘陵

　4.11　ダム

　4.12　地すべり

　4.13　建築物(台地)

　4.14　建築物(埋立地・造成地)

　4.15　切土

　4.16　土取り場

　4.17　トンネル

　4.18　埋蔵文化財調査

　4.19　しらす地盤

　4.20　有明粘土

　4.21　風化した第三紀砂岩

資料 地質学的基礎知識
　1.地質学の基本原理

　2.土粒子の堆積メカニズム

　3.沖積層・洪積層と完新世・更新世との違い

　4.海進と海退